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ルーズリーフ・ケース

『TW4:サイキックハーツ』PC、エルーシア・ヴェンクローザ(d09834)の設定やSS、仮プレ等をまとめるためのページです。 ※PBW、TWといった用語が分からない方の閲覧は推奨いたしません。 ※関係者の方でも、閲覧は自己責任となります。 ※誹謗・中傷の類はご遠慮下さい

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過去。
大切な人。
大切な想い。

彼女は今、思い出せない。―思い出しては、いけない。

「僕はゼルーカス。君は?」
「…え、エルーシア…」
 ―紳士的な青年と、引っ込み思案な少女。
 親の都合で義兄妹となった二人は、いつしか惹かれあうようになっていた―そう、家族としてではなく、男女としての愛によって。
「元は他人だったのだから、何もおかしなことはないよ」
「そう、かな…そうなら、いいな」
 傍目にも仲睦まじい義兄妹に見える二人。当人達の中では、それ以上の絆が育まれていた。


 ―ただし。
 愛が実を結ぶ瞬間は、永遠に訪れない。


◆◇◆


「…闇堕ちしたのは、僕の妹だ」
「口下手な妹だが、その実感受性の強い子でね」
「何がきっかけになったのかは僕にも分からないが…とにかく彼女は、自身の闇に囚われて行方をくらませた」
「一応、行き先の検討はついている…と言っても、確実に何処とは言えないけれど」
「できれば救出したいが…最悪、尊厳を辱められるくらいなら、いっそ…とも、思っては、いる」
「どちらにせよ、僕一人では難しい…力を、貸してもらえないだろうか」


◆◇◆


 空は厚い雲が覆い、雨の予感を感じさせる。
 寒々しさすら感じる浜辺。漣の音を伴奏に、美しい歌声が響く。
「あら…」
 人の気配を感じ、歌うのを止め彼女は振り返る。
「意外だわ。船乗りじゃなくて、灼滅者が来るなんて」
 柔らかく笑むその顔は、まさしく探していた少女のそれである。だが、魚の鰭のように変化した耳や、脚を失い鱗がきらめく下半身は、さしずめ童話に語られる人魚姫を彷彿とさせた。
「歌に引き寄せられた…なんて嘘は、不要だね」
 対峙するは、青年と数名の男女。各々の手には、超常にして人類の敵なるものを屠るための武器が握られている。
「君を探していたのさ、やっと見つけたよ」
「ふぅん…」
 青年達を値踏みするように眺める人魚は、青年の瞳を見つめて淫蕩に微笑む。
「そう…アナタがこの子の大切な人なのね。アナタを見た時だけ、ここがざわめくの」
 白磁のような胸を指先でなぞり、熱っぽい視線を送る。
「アナタを奪えば、きっとこの子はひどく絶望して…あたしに、全てを委ねてくれるわ。こんな世界、もう嫌だ…って」
 さあ、一緒にいい夢を見ましょう―人魚はくすりと笑み、誘うような仕草を見せ。
「あたしのモノに、してあげる」
「悪いけど、遠慮しておくよ。妹を―エルを、返してもらおうか」
 青年達が、砂を蹴った。


◆◇◆


 ダークネスと灼滅者とでは、単純な戦闘力としては間違いなくダークネスの方が上である。しかし統率の取れた灼滅者のチームは、それを補う強さを持っている。
 序盤こそ力量差に押され気味であったが、青年達は人魚の手の内を見極め、苦戦しつつも徐々に追い詰めていった。
「生意気ねっ…」
 人魚の歌声が響く。青年を魅了しようと、魔力が触手のように絡みついていく。
「生憎と、こっちも必死なのさ」
 見えざるそれを振り払い、青年が距離を詰める。
「そろそろ、終わらせよう―帰ろうか、エル」
(―お兄、様…)
 ダークネスの中の少女に、青年の声が届く。
「このっ…灼滅者の、分際でっ!」
 恐怖か、怒りか―人魚の整った顔が、僅かに歪む。
(ゼル、お兄様―!)
 会いたい、話したい、抱きしめてもらいたい―内側から、少女が激しく抵抗する。


 肉薄した青年が、細身の剣を。
 人魚が、苦し紛れに手に持った刃を突き出す。
 交錯。そして―


◆◇◆


(…わた、し)
 少女が目を覚ます。その姿は人魚のそれではなく、少女本来のものであった。
「起きたか!?」
「ああ!そっちは!?」
 少女が軽く頭を振ると、視界がはっきりしてくる。そしてその目に入ったのは―
「―お兄様っ!」
 仲間に身体を起こされた青年は全身ぼろぼろで、胸元が特に赤黒く染まっていた。
 ―最後の攻撃の瞬間、彼は既に魂の力で無理矢理身体を動かしていたようなものだった。そして、人魚が振るった刃は、深々と青年の胸を―
「お兄、様…」
 重い身体を引きずるように、少女は青年のもとへ向かう。跪いた少女に身を預け、青年は僅かに目を開ける。
「エ、ル…お帰り。すまない、ね…助ける、のが、遅く…なった」
 涙をぽろぽろと流しながら、いやいやをするように首を振る少女。そんな少女の涙を掬うように、ぎこちなく、ゆっくりと、青年の手が少女の頬に伸びる。
「泣か、ないで…おくれ。笑ってる…君が、好きなんだ…」
 青年の体温が、何かに吸われるように急速に失われていく。誰の目から見ても、青年に残された時間はごく僅かだった。
「…よかった。君の…腕に、抱かれ、て…眠れる…な、ら…」
「―いや!逝かないで!お兄様、目を開けて!お兄様!」
 叫び続ける少女の腕の中、青年は静かに微笑み、


 少女の慟哭に呼ばれるように、浜辺には雨が降り出していた。


◆◇◆


 冷たい雨の中。物言わぬ青年を抱きしめる少女に、その場の誰もが声をかけられずにいた。
 それでも、そのままではいられない。一人が言葉を探しながら、一歩踏み出したところで―
「!?」
 少女が不意に顔を上げる。濡れた髪の張り付いた顔は蒼白で、視線はどこか遠くを彷徨っている。
 まさか、再び闇堕ちか―最悪の事態を想定し身構える灼滅者達の前で、少女は意外な行動に出る。
「…お兄、様」
 虚ろな目のまま青年に顔を向けると、少女はそのまま顔を近づけ―冷たい唇と唇が、そっと重なった。
「な…こ、これは」
 少女の身体が、淡い光に包まれる。光は剥がれ落ちるように少女から離れ、青年の身体へ降りかかる。光はそのまま、青年の身体の中へ吸い込まれ、そして―
「―ビハインド…!?」
 二人の傍らに、青年が立っていた。正確に言えば、彼には下半身がなく、浮いていた。霊的な存在と思われる青年は顔を隠しており、ビハインドと呼ばれるサーヴァントの特徴に当てはまる―恐らくは、少女が己の能力と引き換えに青年の魂を修復したのだろう。
「―って、呆けてる場合じゃないぞ!」
「そうだ、この子を休める場所に運ばないと!」
 我に返った灼滅者達が、急いで撤収にかかる。
 抱き抱えられた少女に寄り添うように、肉体なき青年は一行と行動を共にするのだった。


◆◇◆


 その後。
 目を覚ました少女は、それ以前のことを殆ど覚えていなかった。
 記憶障害か、それとも―いずれにしても、思い出させるには彼女の精神状態は不安定に過ぎると判断され、最低限の情報を伝えるに留まった。
「―というわけで、君はパートナーとして、この人…もとい、ビハインドを連れてる。…やっぱり、思い出せない?」
「はい…でも…」
 でも?と担当者が首を傾げると、少女は不思議そうに答えた。
「ゼルーカス、お兄様…この方を見ていると、そう呼ぶのが自然な気がして…少しだけ、気持ちが暖かく、なります…でも…何も、思い出せなくて…」
「んー、無理に思い出そうとしても心と身体に良くないしね。今はそれで良いんじゃないかな」
「そう…でしょう、か」
「うん、そういうものそういうもの」


 いつか、彼女が強くなるまで。
 青年の魂は、静かに寄り添う―ただ、静かに。

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